2018/11/4

症例「股関節痛と歩行障害」

↑祖母の家の庭に咲いていた、秋明菊.
今年も白くて可憐な花をたくさん咲かせました。
 
 
82歳、女性。
今年1月(寒さが厳しい時)、突然右股関節に激痛が走り、病院へ。
医師には、股関節変形によるものであり、手術をするか、手術はせずに痛み止めとシップで様子を見るかのどちらかと言われ、手術はしたくないため、鎮痛剤を内服する。
一旦激しい痛みは落ち着いたが、8月頃再度さらに激しい痛みが出現、鎮痛剤は効果なく、歩行もままならなくなる。(8月は暑さが厳しく、発汗多量で、冷たい飲み物をよく飲んでいた)
 
立ち上がる時、一歩を踏み出す時に一番強く痛みを感じる。
患部は冷えている、入浴で温めると少し楽になる。
60代までバレエの先生、その後は趣味で社交ダンスをしており、膝や足首をよく傷めていた。
 
その他の症状・・・股関節痛発症前より、足裏の感覚が鈍く、下肢に力が入らずよく転倒する。
       夏頃より疲れやすく、気力がわかない。 
 
 
<治療と経過>
寒邪により経絡の流れが阻害されたために起きた痛みであると診断。
また背景には、腎の臓と脾の臓の弱りからくる気血の不足があるため、
それらを補いながら気血の巡りをよくするとともに、再度寒邪に侵襲されないよう、
防衛力を高める治療を行う。
また、痛みがいつまで続くのか、このまま歩けなくなるのではないかという不安が強かったため、精神を安定させる効果のあるツボも使用する。
 
3診目頃から、痛みが楽になり、支えなしで歩ける時が出てくる。が、依然痛みを感じる日の方が多い。また、下肢の安定感(地に足がつく感じ)が出てきた。
5診目頃より、体力、気力がついてきて以前より元気になったと感じる。
11診目、痛みが楽な日が徐々に増えてきた。また、電車やバスに乗って出かけられるようになる。ただ、長距離を歩行すると、痛みがひどくなる。
現在も治療継続中。
 
<考察と説明>
東洋医学では、「通ぜざればすなわち痛む」「栄えざればすなわち痛む」と言われ、気血の滞りや不足のために、経絡の流れが悪くなると痛みを生じるとされています。
流れが悪くなる原因は様々ですが、この方の場合は、長年バレエや社交ダンスなどで、特に下半身の経絡の流れが障害されやすい傾向にあり、そこに寒邪による冷えが侵襲したと考えます。
寒邪の特徴は、引き締めたり、固めたりする作用があるため、激しい痛みを生じることです。
また、このように長く関節痛が続いているということは、寒邪に侵襲されやすい、また寒邪を追い出せない、患者さんの身体にも問題があるということです。
この方の場合は、腎の臓、脾の臓の弱りによって、気血ともに不足している状態でした。
夏に再度悪化したのは、暑さで発汗多量、気血の消耗が激しいところに、クーラーや冷飲で冷えたことが原因であると考えます。
また、不安などにより、精神が伸びやかでないと、気血の流れはより悪くなります。
 
同じ痛みであっても、原因はこのように患者さんによって異なります。
既往歴はもちろんのこと、今までどのような生活をされてきたのか、今現在どのような生活をされているのか、などの詳しい問診や、脈、舌、腹部や背中、手足のツボの状態を診察することが必要なのはこのためです。
 
そして、この方のように、何らかの弱りがあったり、発症後、時間が経過しているものは、
焦らずに、腰を据えて治していかなければなりません。
治療経過の中で、「気力・体力がついてきた」とご本人がおっしゃっているのは、
脾の臓や腎の臓の働きがよくなり、気血が充実してきたからです。
 
現在、少しづつ痛みが減少し、体力・気力がついてきて、笑顔がたくさん見られるようになったことを本当に嬉しく思います。
鍼を信じ、根気よく治療を続けてくださることに感謝します。