2019/8/29

最期に笑い合えましたね

 
 
 
先日、以前の職場で、ディサービスと鍼灸を受けておられた男性患者のNさんが、77歳で膵臓癌のために亡くなりました。
診断されて、わずか数ヶ月後のことでした。
 
Nさんは、とても礼儀正しく、そして周囲に細やかな気配りされる方で、私のことも、体調や仕事、家庭のことなどいつも気遣ってくれていました。
 
Nさんと1年ほどお会いしてなかった私は、闘病のことは全く知りませんでした。
前職の同僚から状態がかなり悪いと連絡をもらい、すぐに病院に向かいました。
同僚は、「本当は闘病のこと、伝えようと思ったけど、Nさんご本人から内緒にしてといわれたので」ずっと黙っていたとのこと。
きっと、弱っている姿を見せたり、気を使わせたりするのがいやだったのでしょう。
Nさんらしいです。
 
病院に向かうバスの中で、果たして内緒にしていたかったNさんに会いにいっていいの?
弱っている姿を見られたくないというNさんの気持ちを尊重した方がいいのでは?
と何度も自問自答しました。
 
病室に入ると、Nさんはびっくり。
でも、すぐににっこり笑って「ありがとう。」と。
幸い痛みは酷くありませんでしたが、重湯を少しか食べれず、自力で動くことは難しく、意識はぼんやりとしていました。
痩せた分、大きく見える目から涙が一筋流れた時、私も同じように泣きました。
 
それから、思い出話をたくさんしました。
Nさんは、遠くを見つめながら、懐かしそうな表情で聞いていました。
おかしくて泣いているのか、悲しくて泣いているのか、お互い涙を流しながら、笑い合いました。
 
「気をつけて帰りな。」
それが、最期の言葉でした。
 
その1週間後Nさんは亡くなりました。
その知らせを聞いた後、ベランダから見上げた星空はとても綺麗でした。
 
病室で笑い合ったあの時間、Nさんは苦しみから少しでも開放されていたのでしょうか。
もう確認するすべはないけれど、そうであったと、幸せな気持ちになったと、私はそう思いたいです。
 
Nさん、ありがとう。
ご冥福をお祈りします。